消閑の読書記録

本をこよなく愛する本の虫です!

「完全なるチェックメイト」を見て

あらすじ

小さい頃からチェスの才覚を発揮し、グランドマスターを最年少で破った主人公ボビー・フィッシャーは遂に世界王者へ挑戦する大会に挑む。しかしそこで当時チェス界に君臨していたソ連の選手同士が不正を行っているところを目撃し、怒りからチェスを引退してしまう。その後、弁護士の助けにより復帰したフィッシャーはソ連の選手を次々と打ち破り、当時の世界チャンピオンであるボリス・スパスキーへの挑戦権を得る。対局は全24局。1局目を落とし、2局目フィッシャーは対局に現れず不戦敗。3局目、フィッシャーは悪手と見られる手を指すがその手は数手後、好転への布石となる…

 

感想(ネタバレあり)

史実をベースに作られているとは思えないほどにフィッシャーの人生は波乱万丈で見ごたえ満載でした。フィッシャーの性格は大の神経質で傲慢。王様気取りの傍から見れば嫌な奴です。しかしそのマイナスを覆すほどのチェスの才能の持ち主でもあります。私はこの性格と才能は決して切り離すことができない不可分の関係にあると考えています。フィッシャーの神経質な面は対局中、カメラの微小な音や観客の微細な動作にも反応してしまうほどに大胆に描かれています。相手のスパスキーはおろか審判の人さえ気づかない音に敏感になる様が描かれています。ものへの集中力がすさまじいゆえに天才であり神経質にならざるを得ないし、その敏感さに妥協は一切許しません。まさにカリスマ的天才だと思います。終盤のスパスキーにおいてもフィッシャーとの対局中、審判に何か音がすると申し立てる部分がありました。原因は蛍光灯の中にいたハエ2匹でした。このシーンはフィッシャーだけでなくスパスキーも極限の集中状態である表現だと受け取りました。極限の状態である2人がぶつかるまさに世紀の一戦の名にふさわしい対局です。第6局スパスキーが敵であるフィッシャーに対して終局後に拍手を送る場面がありました。私はこの行動からスパスキーが好きになりました。映画の中でスパスキーを描写するシーンは少なく、スパスキーの心情が吐露したのはフィッシャーが騒音対策のために会場を卓球場にしろと通達した場面でフィッシャーに対して逃がしてやるものかとその提案を飲みます。このシーンからスパスキーの徹底的なフィッシャーへの執念がうかがえました。迫力ある俳優さんの演技からスパスキーがフィッシャーへ憎悪を向けていると思うほどでした。しかし第6局に見せた拍手からは相手への敬意と賞賛が感じられました。一切の油断が許されないなか挑んだ対局、その中でスパスキーはほぼミスなく駒を指し続けたにも関わらずフィッシャーはそれを上回る手を打ちました。対戦相手に対して拍手を送ってしまうほど美しい手を指したフィッシャーの実力は計り知れません。全体を通してフィッシャーの苦悩が描かれていますが、天才がすべて順風満帆に事が進むのではなく天才ゆえの壁があり、それを罷り通すフィッシャーのカリスマ的才能に憧れるものでした。